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『 夢・続投!マスターズ甲子園 』 重松 清 著 / マスターズ甲子園実行委員会 編 >> 冒頭部はこちら >> |
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>> 重松清氏プロフィール >> |
| 二十数年前、ぼくは甲子園に憧れる田舎町の高校生だった。 といっても、野球部にいたわけではない。 根っから団体行動が苦手で、ヘタレな根性なしの男である。 中学時代は野球部だったものの、高校に入ると、 野球のレベル以前に練習の厳しさにビビってしまい、 「日曜日は練習が休みだから」という理由だけで 未経験のハンドボール部に入部して…… 当然のごとく半年間で退部してしまった、 まったくもって情けない高校生だったのだ。 |
| だからこそ、坊主頭で真っ黒に陽灼けした野球部の連中がまぶしかった。 「奇跡」がまとめてやってこなければたどり着けそうもない、 遙か彼方の甲子園を目指して、ひたすら白球を追う彼らのことが―― 「よくやるよなあ」と冷笑のポーズをとりながらも、 うらやましくてしかたなかった。 だって、あいつらみんな、甲子園があるから、がんばっていたんだもの。 あいつらには、必死にがんばるための原動力が、しっかりとあったんだもの。 「目指せ、甲子園……」とつぶやけば、どんなにキツい練習にも耐えられる。 そんな呪文のような言葉だったのだ、甲子園は。 |
| 目標と呼ぶには、ほんとうは遠すぎる。 でも、甲子園は野球部の連中にとって、たしかに夢であり、憧れだった。 少々無謀だとわかっていても、 「目指すぞ!」と言い切ることができるものが、彼らにはある。 それがほんとうに、うらやましかった。憧れていた。 冒頭の言葉は、だから、正確にはこんなふうに言い換えるべきだろう。 ぼくは甲子園という憧れを持っている連中に憧れる、田舎町の高校生だった――と。 |
| いまでも、その思いは変わらない。 いや、むしろ、オヤジと呼ばれる歳になって、 ますます、あの頃の野球部の連中のひたむきな「憧れ」への立ち向かい方が、 まぶしく感じられる。 憧れのひと、憧れのもの、憧れの場所、憧れの時間……なんでもいいんだ、 とにかく「憧れ」を持っているひとは、絶対に幸せなんだと思う。 オトナとしてのキツい日々を生きるぼくたちに、 いま、なによりも必要なものは、お金でも地位でもなく、 「憧れ」なんじゃないか、という気もする。 |
| かつて甲子園を夢見た皆さん。 教えてください。 いまも、甲子園は、あなたの胸の中で「憧れ」として光り輝いていますか――? それとも、遠い青春の「思い出」として、 胸の奥のほうで、うっすらと埃をかぶっているのですか――? |
| 『マスターズ甲子園』だってさ。 元・高校球児限定のイベントなんだって。 なんだよ、それ、オレ関係ないじゃん、ずるいよなあ…… と元・ヘタレな高校生は、ヘタレなオヤジになったいま、 ちょっとふくれつらになって、スネてみたりもする。 でも――いいなあ、サイコーだなあ、このイベント。 「思い出」が、もう一度「憧れ」に戻るんだ。 そんなことって、フツー、ない。 だから、すごい。 |
| 試合もあって、キャッチボールもあって、入場行進まであるっていうじゃないか。 「思い出」になっていた甲子園を再び「憧れ」の場所にして、 白球を追うオヤジたちの姿は――保証する、とびきりカッコいいはずだ。 見せてよ。坊主頭の高校生に戻った笑顔を。 見せてよ。中年太りのおなかが邪魔になっても、気合と根性で振り抜くフルスイングを。 十一月四日。 甲子園で、会おう。 |
| グラウンドに立つ資格を持たないぼくは、押しかけ応援団長として、 皆さんの勇姿をスタンドから見つめるだろう。 高校時代みたいにまぶしそうに目を細め、 ときどきヤッカミ半分に「肉離れ起こすなよー」とヤジったりしながら、 もしかしたら、ふと涙ぐんでしまうかもしれない。 |
| 「憧れ」の甲子園の土を踏んだみんなが、陽に灼けた顔で、 すっきりした顔で、そして元気を増した笑顔で、それぞれの人生、 それぞれのグラウンドに帰っていけたら……いいな。 甲子園で、会おう。 ほんとうに。 会おうよ、甲子園で。 |
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